日銀のオオカミ少年

イソップ寓話のひとつに、「嘘をつく子供」という有名な話がある。我々が良く知る「オオカミ少年」だ。羊飼いの少年が、退屈しのぎに「狼が来た!」と嘘をつき、その度に大人達が武器を持って現れるが、狼はおらず徒労に終わる。少年が繰り返し同じ嘘をついてきたので、狼が本当に現れた時に少年が「狼が来た!」と叫んでも騙され続けてきた大人達は少年の言葉を信用せず、誰も助けに来なかったので、その村の羊は狼に食べられてしまったという話。

日本ではこの寓話を由来として、嘘を繰り返す人物を「オオカミ少年」と呼ぶ。

このニュースを見て、オオカミ少年は嘘がばれそうになり、とうとう自らその嘘を消し去る行為に出たなと思った。

Bloomberg, 日銀:物価2%達成時期削除、期限でなく見通し-金融政策は維持

『日本銀行は27日の金融政策決定会合で、「2019年度ごろ」としていた物価目標2%の達成時期を経済・物価情勢の展望(展望リポート)から削除した。』

黒田日銀総裁は、過去5年間に及んで達成できなかった金融政策の目標であった物価目標2%達成時期を削除するという荒業を行使した。

財務官僚が如何に秀才であっても、必ずしも中央銀行家として優秀かどうかはわからない。逆に、たいしたことない奴でも、組織的な政治力学で出世する奴も多い。特に財務省(旧大蔵省)は東大法科出身とうだけで、後は国家公務員1種の成績順で出世するので、特に年寄りが優秀かどうかなんかはわからない。

安倍総理が首相に復活したタイミングの2013年3月、財務官僚出身の黒田日銀総裁誕生で、量的緩和が推進され日本の景気が良くなったと思っている(頭の中がのどかな)方々が多そうだが、それは金融や経済が理解できていない方々であることを証明しているに過ぎない。安倍総理と黒田日銀副総裁が誕生したタイミングが良く、日本経済はたまたま米国FRBの大規模金融緩和のお陰で救われたってのが本当のところ。実際黒田日銀総裁が誕生して以降の金融政策は、極まて学術的に浅はかであり、政治的パフォーマンス色が強く、金融政策の副作用面に蓋がかぶされている気がしてならない。

実際、米FRBが昨年3回の利上げを行い、債券再投資の減額を開始して以降、黒田日銀総裁は金融緩和を継続し続けるかのような発言を繰り返しているが、実際は日銀の金融政策はその発言に関係なく、米FRBの金融政策に引きずられ、ドル円相場は円高で、株価はダウに連動し、意図せざるテーパリングを迫られているように思える。

少なくとも僕から見れば白川前日銀総裁の方が地味ではあったが、中央銀行の役割や金融政策の限界を理解しており、それ以上は効果が無い上に、出口が難しくなるという副作用で後々困るから、無駄なことはしないという姿勢を打ち出しており、今の黒田総裁に比べれば中央銀行家としては優秀であったと思う。

実際、日銀のバランシートの資産の40%以上が日本国債で、新発債約80兆円のほとんどを市長消化の後に日銀が購入し尽くす事態が、まともととは思えなかった。そこまで緩和策を講じたにもかかわらず、物価も上昇しなければ、実質賃金も上昇しない日本で、景気回復を実感している国民がどの程度いるであろうか。

さらに日本国債でパンパンに膨れ上がった日銀のバランスシートを今後どのようにして圧縮して、健全な中央銀行のバランスシートに戻すのかが大きな課題になっている。政治的なパフォーマンスの良さと引き換えに、極めて扱いの難しい量的緩和の出口戦略が後回しになっている。

米FRBはバーナンキ元FRB議長や彼の後任のイエレン前FRB議長等は、試行錯誤をこなしながらも極めて上手に市場とのコミュニケーションを成立させ、信頼関係を構築してきた。その結果、辛うじて今年の1月末のイエレン前FRB議長の辞任まで、米国の金融市場は安定してきた。

では、黒田日銀総裁は市場と上手にコミュニケーションが取れているであろうか?

黒田日銀総裁が就任後に真っ先に『「量的・質的金融緩和」の導入について』(2013年4月4日)として、物価目標を掲げた。

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201 3 年 4 月 4 日

日 本 銀 行

「量的・質的金融緩和」の導入について

1.日本銀行は、本日の政策委員会・金融政策決定会合において、以下の決定を行った。

(1)「量的・質的金融緩和」の導入

日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する。このため、マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大し、長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上に延長するなど、量・質ともに次元の違う金融緩和を行う。

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黒田日銀総裁は記者会見においても、「2%の物価目標を達成するには「大胆な金融緩和継続に対する強いコミットメントが必要」とし、「やれることは何でもやる姿勢を示さなければ、物価安定という最大の使命を達成できない」と宣言しつつ、当初2年で2%の物価目標を達成するとしていた。

しかし、その後は毎年毎年物価目標を達成することはなく、常に「サプライズ」のみを市場に与える金融政策の変更と、「物価上昇率を2%にする」という根拠無き強気の発言の連続であった。

 

ただ、我々が事実として現実的な政策効果を見る限り、黒田日銀総裁が大風呂敷を広げたにもかかわらず物価上昇は全く結果を伴わなかった。

にもかかわらず続投しているとは・・・

 

さて、僕はオタクだ。

オタクは執念深い。しかし、この言葉とは似ているが意味がちょっと違う。

オタクはある特定のテーマに異常な執着心がある。僕の場合は、金融経済。そして、その中でもFed Watchingと日銀ウォッチングは趣味と園芸の世界だ(笑)

黒田日銀総裁が2013年3月に就任して以降の日本銀行が公表している『経済・物価情勢の展望』の「物価の中心的な見通し」を追いかけると、以下のように下方修正の連続という変遷をたどっていることがわかる。

 

2013年4月26日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2013年4月)

『以上を前提に、消費税率引き上げの直接的な影響を除いて物価情勢の先行きを展望すると、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給バランスの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを反映して上昇傾向をたどり、見通し期間(2014年度から2015年度)の後半にかけて、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いとみている。今回の 2014 年度までの消費者物価の見通しを、1月の中間評価時点と比較すると、上振れしている。』

 

2013年10月31日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2013年10月)

『以上を踏まえ、消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)の先行きを展望すると、マクロ的な需給バランスの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを反映して上昇傾向をたどり、見通し期間(2014年度から2015年度)の後半にかけて、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いとみている。』

 

2014年4月30日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2014年4月)

『以上を踏まえ、消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)の先行きを展望すると、暫くの間、1%台前半で推移したあと、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、見通し期間(2014年度から2015年度)の中盤頃に、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高い。』

 

2014年10月31日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2014年10月)

『以上を踏まえ、消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)の先行きを展望すると、当面現状程度のプラス幅で推移したあと、次第に上昇率を高め、見通し期間の中盤頃、すなわち 2015 年度を中心とする期間に、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高い。』

 

2015年4月30日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2015年4月)

『以上を踏まえ、消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)の先行きを展望すると、当面0%程度で推移するとみられるが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想される。』

 

2015年10月30日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2015年10月)

『以上を踏まえ、消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比の先行きを展望すると、当面0%程度で推移するとみられるが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、同価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016 年度後半頃になると予想される。』

 

2016年1月29日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2016年1月)

『この前提のもとでは、消費者物価の前年比が、「物価安定の目標」である2%程度に達する時期は、2017 年度前半頃になると予想される。』

 

2016年4月28日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2016年4月)

『この前提のもとでは、消費者物価の前年比が、「物価安定の目標」である2%程度に達する時期は、2017 年度中になると予想される。その後は、平均的にみて、2%程度で推移すると見込まれる。』

 

2016年7月29日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2016年7月)

『この前提のもとでは、消費者物価の前年比が、「物価安定の目標」である2%程度に達する時期は、中心的な見通しとしては 2017 年度中になるとみられるが、先行きの海外経済に関する不透明感などから不確実性が大きい。その後は、平均的にみて、2%程度で推移すると見込まれる。』

 

2016年11月1日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2016年10月)

『今回の物価見通しを従来の見通しと比べると、中長期的な予想物価上昇率の弱含みの局面が続いていることなどから、やや下振れている。なお、2%程度に達する時期は見通し期間の終盤(2018 年度頃)になる可能性が高い。』

 

2017年1月31日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2017年1月)

『今回の物価見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。2%程度に達する時期は、見通し期間の終盤(2018 年度頃)になる可能性が高い。』

 

2017年7月20日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2017年7月)

『従来の見通しと比べると、見通し期間の前半を中心に下振れるとみられるが、見通し期間の終盤にかけては、賃金の上昇を伴いながら、物価上昇率が緩やかに高まるという好循環が次第に作用すると考えられる。2%程度に達する時期は、2019 年度頃になる可能性が高い。』

 

2017年10月31日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

『従来の見通しと比べると、携帯電話通信料の値下げの影響等から 2017年度について幾分下振れているが、2018年度、2019年度については概ね不変である。2%程度に達する時期は、2019年度頃になる可能性が高い。』

 

2018年1月23日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2018年1月)

『今回の物価の見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。2%程度に達する時期は、2019年度頃になる可能性が高い。』

 

2018年4月27日

日本銀行

経済・物価情勢の展望(2018年4月)

『2019 年度までの物価見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。』

 

とうとう2%の物価目標の到達時期が無くなってしまった・・・(;´・ω・)

 

このように過去5年間で、黒田日銀総裁が質的・量的緩和をバンバン行い、日銀のバランスシートをパンパンに膨らませてきたにもかかわらず、毎年毎年物価見通しが下方修正されている現状を鑑みれば、結果は散々であた。だから僕は黒田一銀総裁がオオカミ少年だと言い続け、岩田規久男前日銀副総裁に代表されるような旧型近代経済学の信奉者であるリフレ派な連中の主張はまやかしと主張してきた。

日本銀行は、27日の金融政策決定会合で、「2019年度ごろ」としていた物価目標2%の達成時期を日銀の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」から削除した行為は、実質的に黒田日銀総裁が2013年に就任して以降の政策が物価を押し上げる効果が無かったことを認め(つまり政策のミス)、彼がオオカミ少年であったと証明しているようなものだ。

黒田総裁は金融政策決定会合後の記者会見で、自身が就任当初掲げてきた物価目標2%達成の見通し時期に関して削除した理由を問われると、市場とのコミュニケーションとの兼ね合いから、見通しの下方修正が政策変更と受け止められてしまう可能性があるから、「達成期限ではなく、見通しであることを明確にするため、記述の仕方を見直すこととした」と弁明している。

良い歳した財務官僚出身の中央銀行総裁がこんなお粗末な説明かい!

まるで組織での保身のような弁明だ。

黒田日銀総裁が誕生したのは2013年3月。それ以降、物価が上昇しない原因を、原油価格の下落や消費税引き上げ、携帯電話料金の引き下げなど、様々な外的要因のせいにしてきた。しかし、そろそろ己の政策ミスを他のせいにする理由が無くなってきたのだろうなと思う。

最後に、直近2018年3月の生鮮食料品を除いた消費者物価指数(コアCPI)は前年比0.9%上昇に過ぎなかった。

出所: 総務省統計局, 2015年基準 消費者物価指数 全国 平成30年(2018年)3月分 (2018年4月20日公表)

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