米ドル高と新興国通貨(2)

昨日『米ドル高と新興国通貨(1)』を書いた。

今回はその続き。

僕は通貨危機の後にジャカルタ入りして不良債権を買い漁った経験から、ハーバード大学のラインハート教授の指摘に注目している。

Bloomberg, 新興市場の状況、08年の金融危機当時よりも悪い-ラインハート氏

ラインハート氏は「各国が置かれた全般的な状況を見ると、5年前よりもずっと多くの問題を抱え、世界的な金融危機の当時より深刻なのは確かだ。内外いずれにも症状がある」と述べた。同氏が挙げた新興市場の問題点は次の通り。』

個人的な問題点: ‎

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米国のインフレと新興市場株との関係:

・インフレ問題の本質は金利の問題であり、米国の金融政策対応への含意だ。「引き締めの度合いが大きくなれば、金利はさらに上昇するとの見通しが広がり、新興市場には何倍もの影響が及ぶ」

・「米国の政策が一段と引き締め状態となり、他の先進国・地域がそれに同程度追随しなければドルは上昇する。そこでダブルパンチが生じる」。新興市場国の通貨にどんな影響があるかも重要。新興市場債務の3分の2余りはドル建てだ

新興市場の脆弱性:

・新興市場が先の金融危機後に急回復した重要な要因の1つは、当時は各国がほとんど対外債務を抱えていなかったことだ

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でも、必ず今回は違うと言い出す勢力がいる。

Bloomberg, 新興国市場はドル高に屈せず、数年にわたる上昇再開へ-アライアンス

『「大半の新興国では基調的な経済と利益成長トレンドの強さを持続」ドルが上昇しても問題ないー。アライアンスバーンスタインのマネーマネジャー、モルガン・ハーティング氏(ニューヨーク在勤)は、新興国資産は以前よりもはるかに強靱(きょうじん)になっていると指摘する。』

言いたいことはわかるが、根拠は?

『ハーティング氏によると、最近のドル高は他の主要通貨と比較してさほど印象的なものではなく、これは新興国の借り手全体にとって為替レートの圧力が制御可能であることを示唆している。主要中央銀行の大半で年内の残る期間は緩和的な金融政策の継続が予想される中、流動性を巡るプレッシャーも誇張されているかもしれないという。』

本当に為替レートの圧力が制御可能と言い切れるのであろうか?

JPモルガンの佐々木さんも分析をしており、新興国通貨の下落は心配ゴム無用だと。

ロイター, コラム:世界経済に悲観無用、新興国通貨安の真相=佐々木融氏

『直近で新興国通貨が大きく下落した事例として記憶に新しいのは、ドルが力強い上昇基調をたどった2013年5月から2016年1月までのケースだろう。

この時は、1)2013年5月に当時の米連邦準備理事会(FRB)議長だったバーナンキ氏が緩和縮小を示唆した「バーナンキ・ショック」による米長期金利の急上昇(ただし2014年に入ってからは急低下)、2)2014年後半以降のエネルギー・コモディティー価格の急落を背景とする新興国経済全体の鈍化、などが新興国通貨急落とドル押し上げの背景だったと考えられる。

この期間の新興国通貨売りは激しく、アルゼンチンペソ、ロシアルーブル、ブラジルレアルなどは対ドルで50―60%下落した。しかし、2014年から2015年にかけては新興国経済が鈍化する一方で、先進国経済が成長率を加速させていった。この結果、世界全体の実質GDP成長率(前年比)は、2013年2.7%、2014年2.9%、2015年3.0%と、むしろ伸びを高めていった。

また、新興国経済の成長率は2016年初まで大幅に減速した後、通貨安のおかげもあってか2017年は急速に回復している。つまり、新興国通貨が大幅に下落することが世界経済の減速につながるとは限らないのだ。』

しかし、この時も2014年から2015年まで新興国経済は成長が鈍化したのは事実で、2016年まではまだ米FRBが量的緩和の縮小・利上げを本格化していなかった時期であり、米国経済が世界経済にとって機関車役を果たしていたと考えられるのではないであろうか。

2016年に書いた少し古い記事があるので紹介します。

2016年8月23日の為替レポートから。

『先週だが、次の記事がどうしてもきになっている。

Bloomberg, グリーンスパン氏:米金利は近い将来に上昇へ、恐らく驚くほど急速に

『グリーンスパン元米連邦準備制度理事会(FRB)議長は金利が近く、恐らく急速に上昇し始めるだろうと予想した。』

2001年から歴史的な低金利政策を行って、米国の住宅バブルを起こした張本人であるグリーンスパン元FRB議長が、金利上昇が近い将来起こると予測している。

これはFRBによる利上げが引起こすのか、それとも、FRBによる米国債購入の減額、つまり、テーパリング(Tapering)によるものなのであろうか。テーパリングとは、量的金融緩和を行っている中央銀行が、国債等の資産購入の規模を徐々に縮小して、量的緩和を終了して、最終的には資産購入額をゼロにすることである。

しかし、このテーパリングは非常に難しい。

実際、2013年の5月から6月にかけて、「バーナンキ・ショック」と呼ばれる株価の暴落と金融市場の混乱があった。これはまさにテーパリングが原因となった。2013年5月22日に、バーナンキ前FRB議長が、債券購入のペースを徐々に減速させて、量的緩和を縮小する可能性を示唆し、さらに翌月の6月19日に、FRBは2013年中に債券購入金額を減額して、2014年半ばに完全に終了すると発言をしたことで、世界的な流動性懸念が生じ、新興国の通貨や株式などから資金が流出し、金融市場が不安定化した。

また、日本でも1998年11月から1999年2月にかけて起た「資金運用部ショック」がある。たかだか1,000億円程度の国債を購入し続けていたが、当時の大蔵省(現・財務省)の資金運用部による日本国債の購入を停止すると1998年12月22日に公表したことで、日本国債が暴落して、わずか三ヶ月で長期金利が0.8%台から2.4%まで急騰した。この時日経平均株価は1998円11月の高値15,320.23円から1999年2月にかけて安値13,122.61円まで約2,000円以上下落した。その当時で毎月1,000億円程度の購入しかなかったのに。

以前からこう書いてました。

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「リーマン・ショックを招いたのも、リーマン・ショック後の新興国バブルや商品価格の高騰を招いたのも、そして新興国に景気後退をもたらし、商品バブルをはじけさせたのも実はFRBの金融政策だということを忘れないようにしましょう。世界的に景気の先行が不透明な状況で、米国が金利を引上げると、ドル・キャリートレードは終了して、新興国などからドルが急激に流出することになることにも注意しないといけない。そうなるとそれでなくてもドル需要が強い新興国では、景気のさらなる悪化が今後生じるリスクが高いと考えられる。アメリカの統計データを見る限り製造業は海外需要の落ち込みにより苦戦している。この状況で、今回の利上げによるドル高が加われば、米国の製造業は一段と苦戦を強いられるであろう。』

アメリカ経済を安定化させようとする中央銀行(FRB)の金融政策が、かえって世界経済の不安定化させるということに注意してください。

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世界経済を巻込んで不安定化する要素を創造し続けているのが、米国の中央銀行FRBですが、それぞれの国でバブルを生じさせたり、はじけさせたりしているのは、それぞれの国の中央銀行です。

今は中央銀行が国債購入を続けているので、債券バブル状態です。

債券バブルがはじければ、金利は急上昇します。

幸いなことに、この記事を書いた後、米金利はバーナンキ元FRB議長が懸念したほど急上昇していない。イエレン前FRB議長の神業?のおかげかも知れないが、インフレ率が伸び悩み米金利引上げも急速には行われなかったことで、辛うじて金利の急激な上昇が抑えられ、米景気に急速なブレーキが掛からなかったことが要因だと僕は思う。

この先のことは亀様しか知る由もないが、僕はFRBによる利上げと、債券再投資プログラムが減額され始めている事実を考えると、米景気に先行き不安を感じている。新興国経済の成長鈍化と米景気の腰折れが同じタイミングで生じれば、強気な予想を期待するのは危険な気がする。

亀のみぞ知るってか。

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