過剰債務と中央銀行

先日『イタリアからドイツへ波及すると面白いのだが・・・』という記事を書いた。

もちろんイタリアからドイツへ向かう旅の話ではない。イタリアからドイツへ債務危機が飛び火したら面白いぞという話である。その中で取り上げた2016年7月14日の為替レポートの一部を抜粋。

『そして、イタリア全体の不良債権の問題よりもさらに質が悪いのが、我が古巣のドイツ銀行のデリバティブズの問題だ。

The nominal value of derivatives risk that DBK holds on its’ books is $72.8 trillion, according to the banks’ April 2016 earnings report. What is astounding about this, is that a single bank owns 13% of the total outstanding global derivatives, which was a staggering $550 trillion in 2015.

2016年4月の営業報告によれば、ドイツ銀行が保有するデリバティブズの帳簿価値は名目で約73兆ドル(日本円で約7280兆円というもはや想像できない水準)にも及んでいる。何とも驚くべきことに、2015年時点で世界には約550兆ドルもデリバティブズの残高の内、ドイツ銀行1行でその13%を保有しているという。

DB Derivatives

出所:Kitco, Deutsche Bank to initiate the next “financial crisis”!

もはやドイツ本国のGDPの約16倍、EU全体の約5倍ものデリバティブズの残高をドイツ銀が保有している。今すぐドイツ銀がデフォルトする訳ではないが、何かあればドイツやEUで救済できる規模のデリバティブズの額ではない。

そんなこんなでドイツ銀行の今の株価は、10年前に比較して83.46%も下落し、リーマン・ショックの時より株価が安いという。

私が働いていた時も、​同じ100億円の利益を稼ぐにしても、GSやMSが1000億円のエクスポージャーで100億円稼ぐのに対して、DB(ダメ・バンク)は1兆円をリスクに晒して、120億円稼いでMSやGSを抜いて利益が1位だ!とお祝いする本当にダメな投資銀行であった。

あんな頭の悪い守銭奴ばかりいるダメな銀行。腐ったバンカー達が、ドイチェを利用して私腹を肥やしただけかも知れない。
ということで、イタリアの銀行の次に、リーマン・ショック以上の爆弾であるドイツ銀行が控えており、円が単独で安くなるなんてあり得ない状況だってこと。』

そしてこんなタイミングで我が古巣の凋落ぶりを端的に表したこんな記事が出ていた。

ロイター, コラム:凋落のドイツ銀が市場に生む「疑心暗鬼」

『問題は、株価が急落し、デリバティブ残高が50兆ドル(約5500兆円)に近づく中で、このドイツ最大の銀行が、市場の混乱を最低限にとどめつつ、その存在感を円滑に少しずつ縮小できるかという点だ。』

まぁ、僕は実際に働いた会社なのでこの会社のスタッフを見て「頭が悪いな・・・」、「レベル低いな・・・」、「口先だけだな・・・」、「センス悪いな・・・」、「金の亡者だな・・・」、「ゴミ溜めだな・・・」って思っていたので、このコラムを読んでも驚かないどころか、ドイチェの凋落ぶりは容易想像がつく。

『コアリションによれば、2011年当時、ドイツ銀はゴールドマン・サックス(GS.N)と並んで、JPモルガンに次ぐ世界第2位の銀行だった。投資銀行事業とトレーディングによる収益は185億ユーロに達し、債券トレーディングでは単独で世界第2位の規模を誇っていた。当時の株式時価総額は360億ドルだった。』

当時のドイチェは強欲でオツムテンテンな連中が上から下までびっしり揃っていたのでリスク管理が甘過ぎた。簡単に言えば「収益」を叩き出すために、ドイチェがどの程度リスクを取ったのか?というところが肝心で、世界第2位の地位の欲しさに彼らがしたことは、デリバティブ残高が50兆ドル(約5500兆円)に膨れ上がるまで、膨らませたということ。

あちゃー!

ところで、2013年1月25日に日本記者クラブで行われた、白川方明・前日本銀行総裁の「中央銀行の役割、使命、挑戦」という講演の最初の部分を見てみましょう。

『2008 年の春を振り返ってみると、総裁就任翌日にワシントンで開かれたG7の財務大臣・中央銀行総裁と民間金融機関の会合で、「最悪期は去ったかもしれない」という発言を聞き、違和感を覚えたことを記憶しています。実際、その年の9月には米国の大手証券会社リーマン・ブラザーズが破綻し、これを契機として国際金融市場の緊張は極度に高まるとともに、世界の経済活動は急速に落ち込んでいきました。また、2009 年暮れ頃には、その後波状的に深刻化することになる欧州債務危機がギリシャで勃発しました。そうしたグローバルな金融危機は投資家のリスク回避姿勢を強めました。その結果、安全資産としての円に対する需要が高まり、為替市場では2007 年にかけての円安傾向から一転、急激な円高が進行することになりました。さらに、2011年3月には、東日本大震災という、あの悲惨な大災害が発生しました。これらがすべて日本経済に大きな影響を与えたことは言うまでもありません。さらに、上述の3つの出来事とはやや性格が異なりますが、この間、わが国では急速な高齢化が進行し、この動きへの適合の遅れが日本の成長率の低下や財政悪化をはじめ、様々な難しい課題をもたらしています。

こうした一連の出来事に対し、日本銀行を含め、各国の中央銀行は、文字通り総力を挙げて対応してきました。金融市場が不安定化する惧れがある場合は、「最後の貸し手」として行動するというのが確立した大原則です。中央銀行はこの原則に従って対処し、金融市場、金融システムの安定に努めました。こうした努力の結果、1930 年代のような大恐慌の再来を回避することに成功しました。しかし、金融危機に先立つグローバルな信用バブルのもとでの債務の積み上がりがあまりにも大規模であったことを反映し、リーマン・ブラザーズ破綻後4年以上を経過した今日でも、世界の景気回復は緩やかなものに止まっています。比喩的に言えば、危機時の急性症状は癒えても、過剰債務の調整に伴う慢性症状から抜け切れていないと言えます。』

この講演が行われて既に5年以上もの月日が流れましたが、世界景気回復は穏やかなものに止まっています。日本がバブル経済の崩壊から抜け出すのに苦労したように、今の世界経済もまた過剰債務の後遺症に苦しんでいるとしか思えません。

白川前日銀総裁は、金融危機の根源には「過剰債務の問題」があると指摘し、それを根本的に解決しなければならないと述べている訳です。

とても乱暴な物事の捉え方ですが、西洋人的な考え方が簡単にわかるのは、西洋医学と東洋医学の違いかも知れません。それは前者は病気を根本的に治すことではなく、その病気の病状を抑えることに注力し、後者は病気の根本的な治癒に注力するという違いのように感じられます。
西洋医学の発達には、戦争が大きく関係しています。戦場では自然治癒力の高まりを待つ時間はない。応急処置して命を食い止め、痛み止めを打てばまた戦える。どうせまた怪我するだろうし、多くの兵士は死ぬので、「今、どうにかなれば良い」という考えが優先されるからだからです。

一方、東洋医学では発想が違います。東洋医学は、患者の身体や精神面を全体的に診て、病気の原因が何かを探り、時間をかけて身体と精神面から自然治癒力を高めるようにすることで、病気の根本を断つというものだと思われます。

私は外資系金融機関で働いてきたので、この白人達の「今、どうにかなれば良い」的な考えをよく知っています。会議をしていても、「何故そうなってしまったのか?」という議論は、責任問題を追求されているようで、彼らは嫌がります。そして、必ず「起きてしまったことを言っても仕方がない。次の戦略を考えよう」的な発言をしてきます。なぜそれが起きたのかに時間を割くよりも、次どうそれをクリアするのかを考える方が大事なんだという思考です。

実はこの西洋人的な「今、どうにかなれば良い」が、今回の過剰債務の問題をより深刻化させると僕は思っています。

「今、どうにかなれば良い」的な金融政策が、バーナンキ前FRB議長が行った大規模な量的緩和政策(QE)でした。世界恐慌や日本の金融政策を研究していた彼は、「今、(信用収縮が)どうにかなれば良い」という発想で、出口戦略は将来その時期が来た時に考えるとして、でマネーを大量供給することで大規模な信用収縮(流動性不足)に対処しました。

もちろん、恐慌は回避できましたが、その原因を根本的に解決することはしていません。そして、大規模な量的緩和は、資産価格や商品価格の高騰、新興国通貨の高騰など、多くの副作用をもたらしました。そして今度はFRBが出口戦略に舵を切って米金利高&米ドル高になり、新興国通貨を暴落させ、新興国経済へ打撃を与えています。

「今、(信用収縮が)どうにかなれば良い」「今、(株価下落が)どうにかなれば良い」、「今、(景気後退が)どうにかなれば良い」・・・

ある意味で正解で、ある意味で無責任な発想ですが、バーナンキ前FRB議長(だけでなく、金融監督者も含めて)は、自分の任期中にサブプライム・ローンの問題、リーマン・ショック、その後のギリシャ・ショックまで波及した金融危機の原因を突き止め、それを根本的に解決することは一切しなかった。当然ながら、犯人を探し出し、ペナルティを課すことすらしなかった。

「今、どうにかなれば良い」がベースにあれば、FRBの議長としては、信用収縮を終わらせて恐慌を回避するのが先で、何故それが起きたのかは後で考えれば良いし、どんな副作用があるのかも後で対処すれば良いと判断したのであろう。

もちろんバーナンキ前FRB議長は、世界恐慌を回避し、米国経済(株価)を回復させたのだから、十分に評価されるべき人物である。しかし、目の前の金融危機を回避したとしても、今回生じた金融危機を根本的に解決した訳では無い。それは、西洋医学と東洋医学の違いと同じようなものだ。

さらに付け加えれば、バーナンキ前FRB議長は日本銀行の政策がいかに間違っていたかを研究していた過去があり、デフレ不況に陥った後も、ゼロ金利下でデフレ克服できない白川前総裁率い日銀の金融政策を批判していました(バーナンキの背理法)。

“Money, unlike other forms of government debt, pays zero interest and has infinite maturity. The monetary authorities can issue as much money as they like. Hence, if the price levels were truly independent of money issuance, then the monetary authorities could use the money they create to acquire indefinite quantities of goods and assets. This is manifestly impossible in equilibrium. Therefore money issuance must ultimately raise the price level, even if nominal interest rates are bounded at zero.”

(貨幣は、ほかの政府債務と違って、利払いも満期もない。通貨当局は貨幣を好きなだけ発行できる。だから、もし本当に物価水準が貨幣の発行量と関係なければ、通貨当局は、財や資産を無限に得ようとして、創造した貨幣を利用できる。これはあきらかに均衡しない。それ故に、例え名目利子率の下限がゼロであっても、貨幣の発行により、最終的には物価水準は引き上がるに違いない。)

Japanese Monetary Policy: A Case of Self-Induced Paralysis?. Ben S. Bernanke, Princeton University, December 1999

しかし、現実はどうでしょうか?これら2つのグラフを見てください。

マネタリーベース1

マネーストック1

出所:日本銀行, 【講演】物価安定のもとでの持続的成長に向けて きさらぎ会における講演 日本銀行総裁 白川 方明(2012年11月12日)

日本は米国やEUと比較しても、対GDP比で、マネタリーベースでも、マネー・ストックでもダントツに量的緩和を行ってましたが、それでもインフレ率は伸びなかった。バーナンキ元FRB議長の主張に従えば、マネーの供給量が足りないということになるのでしょう。

しかし、量的緩和を行ってきたアメリカはインフレ目標2%を達成できていますか?欧州は物価が上昇しましたか?

答えは、Noです。

僕は何度も「インフレは財政的要因で生じる」と書いてきました。

「貨幣を刷ればデフレは止まる」と主張していた本家のバーナンキ前FRB議長や、ノーベル経済学賞受賞者のクルーグマンも、米国でインフレが生じない現実を見れば、自らの日銀批判が間違っていたことくらいは気が付いているでしょう。もっとも未だに理解していない経済学者が日本にはいて、それはリフレ派とも呼ばれる連中で、浜田宏一・内閣参与や岩田規久男・前日銀副総裁あたりが有名です。
白川前日銀総裁は退任の際にこう述べている(2013年3月19日の退任記者会見「白川総裁退任記者会見要旨」)。

『それから、「デフレは貨幣的現象か」あるいは「デフレの原因は何か」というお尋ねです。ある意味で、この問いは5年間ずっとついて回った問いでした。どのような経済活動も、全てお金を必要とするという意味では、全ての経済現象は「貨幣的現象」と言えます。しかし、だからと言って、全ての経済現象を貨幣だけで説明できるわけではありません。仮に、この命題を、「中央銀行の供給する通貨、いわゆるマネタリーベースを増加させれば物価が上がる」という意味に解釈すると、過去の日本の数字、あるいは近年の欧米の数字が示すように、マネタリーベースと物価との関係、リンクというのは断ち切れています。』

にもかかわらず、FRBも、日銀もECBも同じことをおこなってきた訳ですが、結果はインフレは生じていないという・・・www

7年前に既に分かっていた現実』でも書いたけど、僕に言わせれば、そんなことは最初から分かっていたこと。

政治家や政策担当者は、金融政策は万能ではないことを認識し、安易にこうした小手先の手法では、問題が解決されないことを理解する必要がある。金融危機を回避した時点で、政策当局は、こうした危機が「過剰債務の問題」が原因で生じていることを理解している以上、「過剰債務の問題」を同時に解決すべきであった。

「過剰債務の問題」を放置したままで、何らかの経済ショックが生じたり、過剰債務そのものが引き金になって、資産価格の崩壊を招いたり、銀行のバランスシートが毀損したりして、最終的には実体経済にマイナスな影響を及ぼすことになるであろう。そして、銀行のバランスシートのアンバランスを是正しないと、経済が回復しないことや、銀行のバランスシートの回復には時間がかかることが日本のバブル崩壊からはわかっている。

恐らくサブプライム・ショックに端を発したリーマン・ショックやギリシャ・ショック等の金融危機も全ては、この過剰債務の問題に帰着していますが、前回の時に、各国の政治家や、監督官庁が、過剰債務問題を根本的に解決しなかったせいで、再度金融危機が迫りつつあると僕は考えている。

欧州では、多額の不良債権を抱えているイタリアの銀行や、我が古巣のドイツ銀行の株価が暴落しているのを見ればわかるように、過剰債務の問題はかなり深刻な問題です。

そして米国では、2008年の金融危機を引き起こした一因でもある悪名高いクレジット関連商品(債務担保証券(CDO)とクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)、さらには2つを融合したレバレッジの効いたデリバティブズ関連の金融商品)が、再び復活し始めているらしい。しかも、前回よりも複雑になって。ゴールドマン・サックス等が、投資家に販売しているという。

Bloomberg, 「昔の名前は忘れてください」-ゴールドマン復活目指す別物

リーマン・ショックの後、各国の中央銀行や監督官庁、政治家は、銀行システムが抱える根本的な問題を解決しないまま、今日まで来てしまいました。「今、どうにかなれば良い」という場当たり的な金融政策で解決するほど簡単な問題ではなかったと思います。

そして今、放置され続けてきた過剰債務の問題が再び金融危機のスイッチをオンにしたようだ。

Bloomberg, 世界の大き過ぎてつぶせない銀行、30銘柄のうち半分が弱気相場入り

ドイチェのデリバティブズのエクスポージャーを考えると、次はリーマン・ショックなんてレベルじゃないだろう(^_-)

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